目 次
[ A ] : コンパクト銀河群
コンパクト銀河群とは数個の銀河からなる小規模な銀河集団です。しかしながらコンパクト銀河群における局所的な銀河数密度は銀河団中心に準ずるほど高いものになっており、フィールド銀河(小規模集団)と銀河団(高銀河数密度)の両極端な性質を有している環境になっています。それゆえにコンパクト銀河群は銀河の形成進化と銀河環境の関係を解明する上で重要な天体として多くの天文学者によって研究されてきました。
私自身の研究上の興味はコンパクト銀河群における銀河の形成と進化です。コンパクト銀河群における環境効果によって、銀河の形成・進化がどのような影響を受けているかを観測データに基いて考察しています。今までに行って来た研究は、以下のようなものです。
また「可視深撮像観測によるコンパクト銀河群に伴う光学エンベロープ構造の研究」については1998年度および1999年度の東京大学木曾観測所シンポジウムで報告を行っております。興味のある方はすぐ下からジャンプ出来ますので御覧下さい。また2001年11月の木曽観測所ゼミでは、「コンパクト銀河群の研究:現状と今後」というタイトルで簡単なコンパクト銀河群の「当時の」最新レビューと研究レポートを報告しました。その時に使用したPowerPointファイルを公開しますので、興味のある方はすぐ下からダウンロード後、閲覧の上、問題や御意見など有りましたら私まで御一報頂ければ幸いです。ファイルはPowerPoint2000[SR-1]で作成したものをzip形式で圧縮してあります。
- 可視分光観測によるコンパクト銀河群渦巻銀河の回転曲線の特異性に関する研究
国立天文台岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡と新カセグレン分光器を用いて、コンパクト銀河群に属する渦巻銀河の回転曲線を取得。その非対称性や特異性を、孤立渦巻銀河・銀河団渦巻銀河と比較しました。その結果、コンパクト銀河群に属する渦巻銀河は、孤立渦巻銀河・銀河団渦巻銀河よりも有意に非対称性かつ特異な回転曲線を示すことが判明しました。これは渦巻銀河に対する銀河衝突の影響は、コンパクト銀河群環境下で最も強く発現していることを示しています。またコンパクト銀河群渦巻銀河の回転非対称性は、その銀河が属するコンパクト銀河群のサイズ・速度分散、数密度などとは有意な相関を示さないこと、回転曲線の非対称性・特異性の有無は、銀河形態の異常性の有無とは相関を示さないことも明らかになりました。Nishiura et al. 2000, AJ, 120, 1691として発表しました。
- 可視分光観測によるコンパクト銀河群銀河の中心核活動性の発現頻度の研究
国立天文台岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡と新カセグレン分光器を用いて、コンパクト銀河群に属する銀河の中心核スペクトルを取得。Halphaと[NII]輝線比に注目して、これら中心核活動性をActive Galactic Nuclei、Nuclear starburst、No Activityの3種に分類。その発現頻度をフィールド銀河と比較しました。その結果、ハップル形態に対する中心核活動性発現の違いを考慮すると、コンパクト銀河群における中心核活動性発現の頻度は、フィールド銀河と有意な違いを示さないことが判明しました。コンパクト銀河群では、他の環境よりも頻繁な銀河衝突が実現しているのは間違いありませんが、この事実は中心核活動性の発現に関しては、直接大きく関係していないことを意味しています。本研究はShimada et al. 2000, AJ, 119, 2664として発表しました。
- 可視深撮像観測によるコンパクト銀河群に伴う光学エンベロープ構造の研究
東京大学大学院天文学教育研究センター木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と2kCCDカメラを使用して、コンパクト銀河群の可視深撮像観測を行いました。これにより観測した約30個のコンパクト銀河群のうちの半数近くに、メンバー銀河全体を覆うような淡い光学エンベロープを検出しました。さらに光学エンベロープを有するコンパクト銀河群には、サイズ、メンバー銀河の速度分散、全Bバンド光度の間に有意な相関関係があることを確認しました。これは光学エンベロープを有するコンパクト銀河群が重力的に結びついた銀河集団であり、ここでは頻繁な銀河衝突によって銀河起源の低質量星が銀河外へ引き摺りだされることによって、光学エンベロープを形成することを示唆しています。本研究は私の博士研究論文の一部であり、さらにこの一部はNishiura et al. 2000, AJ, 120, 2355として発表しました。
- 多色撮像観測によるコンパクト銀河群HCG79の潮汐矮小銀河の研究
コンパクト銀河群HCG79に属する非常に淡い矮小銀河の多色撮像データをからSED(spectral energy distribution)を取得し、それを理論によるSED(GISSEL97を使用)と比較することで、その形成・起源を考察しました。観測データとしては、東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と1kCCDカメラ(V)および近赤外線カメラ(通称KONIC:J、H)、ハワイ大学マウナ・ケア観測所の2.2m望遠鏡と8kモザイクCCDカメラ(VR、I)、同観測所60cm望遠鏡Planetary Patrolと近赤外線カメラ(K')、ハッブル宇宙望遠鏡広視野カメラ(WFPC2)のアーカイブデータを用いました。その結果、この矮小銀河はmetal richなSEDを示し、通常の矮小楕円銀河とは異なること、B-Vのカラーが潮汐矮小銀河よりも非常に赤いこと、またこの矮小銀河のSEDは潮汐構造で繋がった銀河HCG79bと同じSEDを持つことが判明しました。これはこの矮小銀河が銀河衝突によってHCG79bから引き出された恒星成分から形成されていることを示しており、従来とは異なる潮汐矮小銀河の形成プロセスが有り得ることを示唆しています。本研究はNishiura et al. 2002, PASJ, 54, 21として発表しました。これらの研究に携わる途中、去る1998年3月には本教室の大山氏(当時大学院生、現国立天文台研COE究員)、村山氏(当時大学院生、現東北大助手)、谷口助教授との共同研究が日本天文学会のプレスリリースに選ばれ、関連記事が新聞にも掲載されました。本研究の簡単な説明へは、すぐ下からジャンプできます。御覧下さい。
内 容 ジャンプおよびDL 2001年度 木曾観測所ゼミ
「コンパクト銀河群の研究:現状と今後」PPT Download 1999年度 木曾観測所シンポジウム集録
「可視光深観測によるコンパクト銀河群の研究」Go to Proc. 1998年度 木曾観測所シンポジウム集録
「見えてきたコンパクト銀河群の実態」Go to Proc. 1998年度 春季学会 プレスリリース内容解説 Go to OUR PRESS RELEASE
[ B ] : 活動銀河中心核(Active Galactic Nuclei = AGNs)
多くの銀河の中には、その中心から銀河全体にも匹敵するような膨大なエネルギーを放射しているものがあります。このような銀河の中心部を「活動銀河中心核(Active Galactic Nuclei = AGNs)」と呼びます。このような莫大なエネルギー放射の要因としては、銀河中心に鎮座する数1000万から数億太陽質量を有する超巨大ブラックホールの存在が大きく関係していると考えられます。特にセイファート銀河と呼ばれる銀河の中心部スペクトルは、幅の広いバルマー輝線を示すI型セイファート活動銀河中心核と幅の広いバルマー輝線を示さないII型セイファート活動銀河中心核に大別されます。しかし偏光分光観測によって、II型セイファート活動銀河中心核にも幅の広いバルマー輝線が見つかったことから、二つの活動銀河中心核は基本的に同じもので、その中心核構造と観測者からの視線方向によって異なるスペクトルを示す、と理解されてきました(セイファート活動銀河中心核の統一モデル)。しかしここ数年の間の近赤外線・X線分光観測などの結果は、必ずしもそこまで簡単なものではないことを示唆しており、このような活動銀河中心核の形成や進化、構造に関して、まだまだ熱い議論が交わされています。
私の大学院生初期の頃は、指導教官が活動銀河の専門家であったこともあり、本業のコンパクト銀河群の研究に加えて、活動銀河中心核の研究も僅かながら行いました。データをまとめる、論文を書く、レフェリーと戦う(笑)といった研究者としての基本的なことを、以下の研究を通して学びました。
- I型セイファート活動銀河中心核の広輝線領域の幾何学的構造に関する研究
活動銀河中心核の構造は、中心に超巨大ブラックホールを持ち、そのすぐ周りに降着円盤(アクリーション・ディスク)が存在している、と考えられています。特に可視光分光によって検出される広輝線放射領域は、降着円盤の外縁部にあると考える研究者も少なからず存在します。日本のX線天文衛星ASCAのX線分光観測は、そのFe K輝線からブラックホールのすぐ外側の降着円盤の運動状態、またそれを通して幾何学的構造を考察することを可能にしてくれました。そこで約20個のI型セイファート活動銀河中心核に対して、ASCAによるFe K輝線分光データから導かれた降着円盤の傾きと、可視光分光観測から得られる広輝線放射領域(Hα、Hβ輝線を使用)の運動速度の相関関係を統計的に調査しました。Fe K放射領域と広輝線放射領域が従来のイメージ通りに、降着円盤の内側と外側であれば、Fe Kから得られた降着円盤の傾きと、可視光から得られた広輝線の運動速度は正の相関を示すはずです(Fe K放射領域をedge-onで見ていれば、広輝線放射領域をもedge-onで見ていることになる)。ところが実際には、この両者の間にはきっちりとした正の相関関係が無いことが判明しました。これはI型セイファート活動銀河中心核の中心部分の構造、特にFe K輝線放射領域と広輝線放射領域が同一平面上には無く、外へいくほど捻れた形をしている可能性を示しています。本研究はNishiura et al. 1998, PASJ, 50, 31として発表しました。
- II型セイファート活動銀河中心核の中心質量に関する研究
II型セイファート活動銀河中心核に対して行われた偏光分光観測データから、広がったHβ輝線の速度幅を導出、電子散乱に対するτを仮定して、その中心部分の質量の見積もりを行いました。セイファート活動銀河中心核の統一モデルに従えば、I型とII型の中心核質量の分布は同じになるはずです。これを満たすためには、II型セイファート活動銀河中心核の電子散乱領域のτが、光学的に薄い状態(0.1)では無く、1程度に大きくないといけないことが判明しました。本研究はNishiura & Taniguchi 1998, ApJ, 499, 134として発表しました。
[ C ] : 孤立銀河周辺部の矮小銀河の研究
矮小銀河とは銀河の中でも非常に小さく暗い銀河の総称です。しかしその数は他の銀河に比べて圧倒的に多いと考えられ、また様々な環境の影響を受けて形成・進化してきた、もしくは今現在形成・進化している、と思われている天体です。矮小楕円銀河(メタルプア・赤い)と矮小不規則銀河(メタルリッチ・青い)に大別され、前者は銀河団、後者は銀河群や孤立銀河周辺部、フィールドに多く分布すると言われています。矮小銀河が一般のサイズの銀河の傍に存在すると、矮小銀河はこの銀河の重力ポテンシャルによって、力学的・化学的に様々な影響を受けると考えられています。これによって通常の銀河の近くには赤い矮小銀河、遠くには青い矮小銀河が分布すると考えられています。
本研究の目的は、このような影響が本当に一般に起こりえるのか否かを検証することにあります。このために私達は、広い視野を持つ東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と2kCCDカメラを用いて、近傍孤立銀河の領域を深撮像観測しています。今の所、得られた結果は「必ずしも全ての孤立銀河でそのような傾向が見られる訳では無い」というもので、現在データ解析とそのまとめを進めています。なお本研究は富田晃彦氏(和歌山大・教育・助教授)、伊藤信成氏(三重大・教育・助教授)、塩谷泰広氏(東北大・理・天文)、八木雅文氏(国立天文台・光赤外部・助手)と共同で行っています。
[ D ] : 近傍渦巻銀河の星生成領域のSEDに関する研究
太陽近傍の星生成領域は暗黒星雲や散光星雲として観測されます。しかし遥か遠くに離れた系外銀河の星生成領域は、非常に小さな粒子状にしか見えません。しかしこの中には形成された様々な質量の恒星、O型星からの紫外線放射で電離された水素イオンガスを初めとする様々な元素のプラズマ、ガスやダストなどが含まれています。そこで多色撮像によってこの星生成領域一つ一つのSEDを調べ、輝線成分と連続光成分を分離できれば、理論モデルと比較することで、それぞれの星生成領域の初期質量関数や星生成史などに制限が付けられる可能性があります。さらにこれをCO分子ガスの分布などと比較することで、恒星の集団的形成と進化に関する描像が見えてくると期待されます。
本研究ではまず東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と2kCCDカメラ、そして広帯域・狭帯域フィルターを用いて、近傍渦巻銀河の個々の星生成領域の多色撮像観測を行います。そしてこれによって得られた星生成領域のSEDデータを様々な理論モデルと比較することで、星生成領域の性質を詳細に調べていきます。なお本研究は富田晃彦氏(和歌山大・教育・助教授)、濤崎智佳氏(国立天文台・野辺山)土橋一仁氏(東京学芸大・教育・助教授)との共同研究となっています。また濤崎氏を通じて、国立天文台野辺山の系外銀河COアトラス・チームとの共同研究にもなっています。
[ E ] : 国内地上観測の効率化
日本の風土は、観測天文学に極めて向かないものになっています。決して高くない晴天率、頻繁に乱れる気流によるseeingの不安定さ、そして大気減光の不安定さ、などが通常手段での測光観測を困難なものにしています。その結果、国内での観測効率を向上させるためには何らかの工夫が必要となります。特に国内観測での測光精度を向上させるためには、いつ来るか分からない測光夜を気長に待つよりは、撮像した天域の構成を用いて、積極的な測光作業を行う方が有意義です。しかしこれを実行するためには全天かつ全フィルターバンドでの恒星の撮像データを用意する必要があります。しかし最近はネットワーク技術の進歩により、世界各所で行われた大型サーベイ観測の結果を容易に参照できるようになりました。これらを利用することで、例え国内観測であっても、測光精度を従来以上に効率的かつ精密に行うことが可能になります。
2002年2月の木曽観測所ゼミでは、「木曽観測所観測効率向上大作戦」というタイトルで木曽観測所における観測効率の諸問題とその解決方法を考察・報告しました。その時のPowerPoint用ファイルを公開しますので、興味のある方はこのすぐ下からダウンロード後、閲覧の上、問題や御意見など有りましたら私まで御一報頂ければ幸いです。ファイルはPowerPoint2000[SR-1]で作成したものをzip形式で圧縮してあります。
内 容 ジャンプおよびDL 2002年度 木曾観測所ゼミ
「木曽観測所観測効率向上大作戦」PPT Download
[ F ] : 天文学教育
近年、児童・学生など若者の理科離れが問題視されています。その影響を受けてか、教育の最前線である小学校教員の多くまでもが、出来れば理科に関しては理科専門の教員に任せたい、と望んでいるようです。小学校教員は決して何かの専門に特化している訳ではありません。学力知識としては「広く」「浅く」が求められています。しかしながら、理科という科目は、それを指導する側が自然科学をそれなりに深く理解しなければ、結局は教科書や資料集の単なる丸暗記に終わってしまうという性質を持っています。このような教育現場において、自然科学、特に天文学についてはどのような初等教育を行うことが相応しいのでしょうか?また小学校教員に対して、どこまでの自然科学、特に宇宙科学に関する理解を求めるべきなのでしょうか?同じような問題は、程度の差こそあれ、中学校、高等学校においても顕在化しています。
私は東京大学木曽観測所在任中に、「SPP(*注1)星の教室」や「銀河学校」と呼ばれる高校生対象の天文学実習を通して実習用教材の開発や観測天文学実習用テーマなどを提案・実践して来ました。また同時に観測所近隣の小・中・高等学校への理科特別授業(2003年度からは「星空教室」)なども頻繁に行ってきました。その際に使用したPowerPoint用ファイル等を公開しますので、興味のある方はこのすぐ下からダウンロード・閲覧して下さい。なおファイルはPowerPoint2000[SR-1]で作成したものをzip形式で圧縮してあります。
内容およびタイトル 日時・場所・対象 ダウンロード SPP教員研修『最近の天文学の話題と
太陽観察、星空観察』用講義2005年08月日
文教大学教育学部[準備中] 星空教室
(理科特別授業)2003年10月30日
長野県木祖小学校-6年生-Part.1 PPT DL
Part.2 PPT DL教員研修用講義
『銀河と宇宙に関するよくある三つの質問
~そのうち二つの傾向と対策~』2003年08月11日
東京大学木曽観測所PPT Download 教育活動紹介『木曽観測所の場合』 2003年03月01日
第8回天体スペクトル研究会
和歌山県川辺町かわべ天文公園にてPPT Download 総合学習
『銀河とブラックホール』2002年01月18日
長野県南木曽中学校-1年生-
木曽観測所にてPPT Download 理科特別授業
『宇宙人のさがしかた』2002年10月16日
長野県読書小学校-3年生-PPT Download 理科特別授業
『はるかなる宇宙の広がり』2002年07月15日
長野県贄川小学校-3~6年生-PPT Download 理科特別授業 2002年06月28日
長野県木祖小学校-6年生-PPT Download 理科特別授業 2001年11月12日
長野県木曽高等学校-理数科2年生-PPT Download 理科特別授業 2001年06月30日
長野県木祖小学校-6年生-[準備中]
[ G ] : 天文学啓蒙&普及
天文学研究によって得たれた科学的知見やその思考方法を、後の世代に理解させていくことが「天文学教育」だとすると、あまり科学的という部分に拘らず、現在天文学において今何が分かっているのか?今何が最前線の話題なのか?などを伝え広めていくことが「天文学啓蒙普及」と言えます。私が今までに一般の方々を対象に行った講演で用いたPowerPoint用ファイル等を公開しますので、興味のある方はこのすぐ下からダウンロード・閲覧して下さい。なおファイルはPowerPoint2000[SR-1]で作成したものをzip形式で圧縮してあります。
内容およびタイトル 日時・場所・対象 ダウンロード 観測所特別公開講演
『流星-地球に最も近い天体
~その謎を探る~』2002年08月10日
東京大学木曽観測所PPT Download 天文教室
『スターバースト銀河』2002年04月14日
和歌山県美里町立みさと天文台PPT Download