############################################################################### (1998年 日本天文学会春季年会 記者会見用資料) ###############################################################################

東北大学 理学部 天文学教室
大山 陽一、西浦 慎悟、村山 卓、谷口 義明


今回、我々は偶然にも「ステファンの五つ子」と呼ばれる銀河群の中に、100万個分
にも相当する超新星残骸の集団を発見した。

我々の研究グループは銀河群に属する銀河の中心核活動性と回転運動を調べるため、
岡山天体物理観測所の 188 cm 反射望遠鏡に新カセグレン分光器+CCD検出器を用
いた分光サーベイ観測を行っていた。そして丁度、「ステファンの五つ子」のメンバー銀
河のひとつである NGC7318A のスペクトルを観測すべく、この銀河の長軸方向にスリット
を合わせたところ、その視野の中にまったくの偶然で隣の銀河 NGC7318B の腕先端付近
が入ってきた。そしてこの領域に問題の超新星残骸の集団が存在したため、我々が発見の
栄誉にあずかることとなった。
まずは実際に我々が観測から得たスペクトルデータを見て頂きたい。すると通常の星生
成領域のスペクトルに比べて、超新星残骸集団のスペクトルは「非常に幅の広い電離水素
ガス輝線」を持っていることが分かる。この幅は速度にすると約 1000 km s-1 にも相当
し、この領域の電離水素ガスが激しい運動状態にあることを示している。また非常に強い
電離硫黄ガス輝線を有することも特徴的である。以上のような電離水素ガス輝線と電離硫黄
ガス輝線の性質を、超新星残骸以外の起源によって説明するのは極めて困難である。
我々はさらに東京大学理学部天文学教育研究センター木曾観測所の 105 cm シュミット
望遠鏡を使って、「ステファンの五つ子」の赤色連続光(Rバンド)と電離水素ガスの撮像
観測を行なった。結果はこれまた驚くべきものであった。そこには銀河サイズの巨大な電離
水素ガスの「弓状構造」が存在したのだ。これほど巨大な電離水素ガス領域はいまだかつて
見つかってはいない。しかもこの「弓状構造」は、超新星残骸の集団が存在する NGC7318B
の腕に沿って存在しているのだ。
過去に行われた「ステファンの五つ子」に関する研究をひも解いてみると、今回の超新星
残骸の集団が存在する NGC7318B の南東の腕と北東の腕からは非常に強力な電波連続波と
軟X線が放射されていることが分かった。電波とX線によるこれらの観測結果は、この領域
に超新星残骸が存在していることと矛盾しない。特に電波連続波のピークは超新星残骸集団
が存在する位置と一致しており、さらに電波連続波の強度分布は「弓状」の電離水素ガス領域
と全く同じなのである。これらの結果は電波やX線の放射源が超新星残骸であることを示唆
するものである。そして電波強度やX線強度からこの領域に存在する超新星残骸の数を見積
もると、何と「100万個!」という値が得られるのだ。
しかしながら今回の発見の最大の問題点は、実はこの100万個という数では無い。

この超新星残骸の集団が存在する領域に、何も天体らしきものが見えない

という事実が何よりも問題なのである。もう一度、赤色連続光(Rバンド)と電離水素
ガスの図をじっくりと見比べて頂きたい。普通の星生成では様々な質量の恒星が生ま
れるため、まだ超新星爆発を起こさないような恒星が沢山あってしかるべきである。
しかし、この領域にはそのような恒星集団とおぼしき天体は全く見られない。つまり、
この領域では超新星爆発を起こすような大質量星のみが生成されたと考えざるを得ない
のである。大質量星の寿命は数100万年から1000万年と非常に短かい。従って、これほど
大規模な超新星残骸が観測されるためには、100万個の大質量星がほぼ同時期に生成され
ねばならないことになる。
いずれにしてもこのような現象は宇宙のタイムスケールで見れば、ほんの一瞬のイベント
である。我々がこのまばたき一つの現象を垣間見ることが出来たのは、まさしく幸運と言え
よう。


尚、本研究の詳細は Ohyama, Y., Nishiura, S., Murayama, T., and Taniguchi, Y. 1998, ApJ, 492, L25
を参照して頂きたい。

(文責: 西 浦 慎 悟)
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