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第 4 章 − 考
察
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今回の観測研究から我々が得た結果をまとめると以下の [ A ] [ B ] [ C ] のようになる。
[ A ]
当初の狙い通り、オプティカル・ディープ観測による、リアルなコンパクト銀河群のサンプリングが可能である。
特にX線観測によるホットガス分布とオプティカル・エンベロープ概形の酷似は、オプティカル・エンベロープを有するコンパクト銀河群のメンバー銀河の重力的結びつきを強く示唆するものである。
またオプティカル・エンベロープそのものの正体については、銀河周縁部に存在していることと、オプティカル領域での放射があることから、銀河衝突によって銀河外に引きずり出された恒星成分であると考えられるが、その表面輝度がRバンドで25−26
mag arcsec^-2という暗さのために分光観測が難しく、十分な観測データを取るには至っていない。
[ B ]
オプティカル・エンベロープの有無による、渦状銀河存在率、特異銀河存在率の統計的有意な差は見出されなかった。
オプティカル・エンベロープを持たない銀河群には、メンバー銀河が重力的に結びついていない「見かけのコンパクト銀河群」と、メンバー銀河は重力的に結びついているが、オプティカル・エンベロープが形成されるほど銀河衝突を経験していない、「力学的に早期なコンパクト銀河群」が混在していると考えられる。オプティカル・エンベロープの有無の違いが、銀河が頻繁に銀河衝突を経験するか否かのみを反映していると考えると、渦状銀河の形態は銀河衝突の頻度には依存しないことになる。オプティカル・エンベロープの有無と特異銀河の存在割合には関連性が見られないことから、銀河の形態や回転の異常は銀河衝突の頻繁さとは関係しないと考えられる。実際にはオプティカル・エンベロープを持たない銀河群の中にも、ペア銀河とフィールド銀河の
Chanse Alignment という形で、銀河衝突を経験する銀河が少なくないのであろう ( Mamon 1995 ) 。
[ C ]
オプティカル・エンベロープを有するコンパクト銀河群は、オプティカル・エンベロープを持たない銀河群に比べて、質量−サイズ、速度分散−サイズ
の関係がタイトである。
コンパクト銀河群は頻繁な銀河衝突を経験して、特定の力学状態に落ち着いて行くと考えられる。この特定の物理状態としてビリアル平衡状態が考えられる。そこで典型的なビリアル・システムとしてフィールド楕円銀河の質量、サイズ、速度分散を図3−2上にプロットしたものが、次の図
4−1 である。

( 図 4−1: 図 3−2 の上にフィールド楕円銀河のデータを×印でプロットした。)
フィールド楕円銀河のデータ点はフィットした直線からはズレているものの、オプティカル・エンベロープを持つコンパクト銀河群のデータ点と同じ系列に乗っているように見える。これはオプティカル・エンベロープを持つコンパクト銀河群がビリアル平衡状態、またはそれに近い物理状態にあることを示唆している。多くの数値シミュレーション研究から、コンパクト銀河群のメンバー銀河が銀河合体を繰り返して楕円銀河へ進化していく可能性が示唆されているが、これを考慮すると、オプティカル・エンベロープを持つコンパクト銀河群が
collapse して、サイズがより小さくなり、速度分散が大きくなり、やがて銀河合体を繰り返して楕円銀河へ進化していくという可能性が考えられる。
さらに最近の数値シミュレーションの、ダークハローの分布が銀河合体のタイムスケールに大きく影響するという結果 ( Athanassoula et
al. 1998 ) を考慮すると、図 4−2 のようなコンパクト銀河群の力学的進化プロセスが考えられる。

( 図 4−2:
コンパクト銀河群の力学的進化プロセス)
すなわち、
[ ケースA ]
ダークマターが銀河群全体に付随している場合。
[ ケースB ]
ダークマターが個々のメンバー銀河に付随している場合。
である。ケースAでは銀河合体に要する時間はハッブル時間とほぼ同じ程度である。それに対してケースBでは銀河合体に要する時間は
10^9
年とハッブル時間に比べて短い。しかしいずれのケースでも銀河衝突によって恒星成分をオプティカル・エンベロープとしてシステム外周部にエネルギーを移動させ、その代償として
merging プロセスを実現すると考えられる。しかしケースBの場合でも銀河合体の軌道によっては、 ハッブル時間よりも長い合体時間を要することもある (
Governato et al. 1991 )
。コンパクト銀河群のオプティカル・エンベロープよX線観測によるホットガス分布をより詳細の調査することで、コンパクト銀河群におけるダークマター分布の詳細 (
銀河群付随か?各銀河付随か?その割合は何対何か? ) が判明し、そこからコンパクト銀河群の形成プロセスが見えてくるのではないかと思われる。
☆
参考文献
Athanassoula, E., Makino, J., amd Bosma, A. 1998, MNRAS, 286,
825
Governato, F., Bhatia, R., and Chincarini, G, 1991, ApJ, 371,
L15
Mamon, G. A. 1995, In Groups of Galaxies, ASP Conf. Der. 70,
83
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