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第 1 章 − は じ め に

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1−1 宇宙の階層構造

宇宙の階層構造に目を向けて見ると、大きい方は数百から数千もの銀河から成る銀河団、小さい方はペア銀河からフィールドに存在する孤立銀河までと、様々なバラエティに富んでいる。銀河の形成進化と環境の関わりを解明しようという試みは、今までにも数多く行われており、Dressler ( 1980 ) による銀河の形態密度関係はあまりにも有名である。また「遠方の銀河団では青い銀河の割合が多いものが存在する」というブッチャー・イムラー効果 ( Butcher and Oemler 1984 ) への注目も非常に高まっている。そして銀河団と孤立銀河の中間的な階層構造として、銀河群もまた多くの研究者の注目を浴びている。

1−2 コンパクト銀河群

Fig11 = Stephan's Quintet
(図 1−1: コンパクト銀河群「ステファンの五つ子」。我々が木曾観測所でイメージング観測したもの。)

銀河群の中でも、特に数個の銀河から構成されかつ銀河団に準ずる高い銀河数密度を持つ集団は、コンパクト銀河群と呼ばれ、銀河の形成進化と環境との関わりを解明するのに相応しいサンプルとして多くの天文学者達の興味を集めている。図 1−1 は最も有名なコンパクト銀河群「ステファンの五つ子」である。


コンパクト銀河群と呼ばれるサンプルは幾つか存在するが、その中でも Hickson によって集められたコンパクト銀河群 ( Hickson 1982, 1993 ) は、「定量的な定義による選出条件」とパロマーチャートを用いた「広大なサーベイ領域」という観点からサンプルとして最も適切であると考えられる。これらのコンパクト銀河群はヒクソン・コンパクト銀河群 ( Hickson Compact Groups : HCG )と呼ばれており、具体的には [A] 銀河数、[B] 集団の孤立性、[C] 高い銀河数密度、[D] 後退速度の一致、の4条件をもって選出されている。図 1−2 を参照して頂きたい。

Fig12 = Criteria of HCG
( 図 1−2: ヒクソン・コンパクト銀河群の定義 )

上図において、m_f、m_b はそれぞれ銀河群内で最も暗い ( faintest ) 銀河と最も明るい ( brightest ) 銀河の等級である。R_G はメンバー銀河全ての中心を囲む最小円の半径、R_N は前述した最小円の中心から最近傍の非メンバー銀河までの距離、V_G は銀河群の後退速度 ( メンバー銀河の後退速度のメジアン値 ) とメンバー銀河の後退速度差を示す。

1−3 コンパクト銀河群銀河の性質

今までの研究から、コンパクト銀河群に属する多くの銀河には、頻繁な銀河衝突を示唆する兆候が確認されている。例えば、

● コンパクト銀河群に属する銀河の約43%が特異形態 ( Tidal Tails、歪んだ isophotes 等 ) を有する ( Mendes de Oliveira and Hickson 1994; 図 1−1 でも巨大な tidal tails の存在が確認できる) 。

● コンパクト銀河群に属する渦状銀河の約3分の2は異常あ回転曲線を示す ( Rubin et al. 1991 ) 。

● 通常の楕円銀河よりも青いコンパクト銀河群楕円銀河が存在する ( Zepf et al. 1991 ) 。

といった観測事実が挙げられる。

1−4 コンパクト銀河群の集団としての性質

銀河集団たるコンパクト銀河群の性質としては、

● コンパクト銀河群のメンバー銀河の速度分散や Crossing Time と渦状銀河存在率との間に相関関係が存在する ( Hickson et al. 1988; Hickson et al. 1992 ) 。

● 幾つかのコンパクト銀河群には、メンバー銀河全体を包むような HI ガス ( Williams et al. 1991; Williams and van Gorkom 1995 )やホットガス ( Ponman and Bertram 1993; Pildis et al. 1995; Saracco and Ciliegi1995; Ponman et al. 1996 ) のエンベロープ構造が存在する 。

というような事柄が確認されている。

Fig03 = HI Envelope and Hot gas Envelope
( 図 1−4: HIガス・エンベロープ[HCG31]とホットガス・エンベロープ[HCG92]、赤+および赤点はメンバー銀河の位置を示す。)

1−5 コンパクト銀河群研究の問題点

コンパクト銀河群についてはその研究の当初から、メンバー銀河の重力的結びつきを疑問視する意見が存在した。最近でも数値シミュレーションなどによって、コンパクト銀河が実際にはフィールド銀河やペア銀河による Chance Alignments である可能性が指摘されている( Mamon 1995; Hernquist et al. 1995 )。

しかしながら、コンパクト銀河群のメンバー銀河が重力的に結びついている可能性は、前述したような多くの観測結果からもかなり高いと考えられる。特に HIガス・エンベロープやホットガス・エンベロープが存在するコンパクト銀河群は、まず本物(つまりメンバー銀河が重力的に結びついている)であると考えて良い。従って、コンパクト銀河群という環境での銀河の形成進化を考える際には、本物のコンパクト銀河群をサンプリングすることが必要不可欠となる訳である。


☆ 参考文献

Butcher, H., and Oemler, A. Jr. 1984, ApJ, 285, 426
Dressler, A. 1980, ApJ, 236, 351
Hickson, P. 1982, ApJ, 255, 382
Hickson, P., Kindl, E., and Huchra, J. P. 1988, ApJ, 331, 64
Hickson, P., Mendes de Oriveira, C., Huchra, J. P., and Palumbo, G. G. 1992, ApJ, 399, 353
Hickson, P. 1993, Ap. Lett. & Comm., 29, 1
Mamon, G. A. 1995, In Groups of Galaxies, ASP Conf. Ser., 70, 83
Mendes de Oliveira, C., and Hickson, P. 1994, ApJ, 427, 684
Hernquist, L., Katz, N., and Weinberg, D. H. 1995, ApJ, 442, 57
Pildis, R. A., Bregman, J. N., and Evrard, A. E. 1995, ApJ, 443, 514
Ponman, T. J., and Bertram, D. 1993, Nature 363, 51
Ponman, T. J., Bourner, P. D. J., Ebeling, H., and Bohringer, H. 1996, MNRAS, 283, 690
Rubin, V. C., Hunter, D. A., and Ford, W. K. Jr. 1991, ApJS, 76, 153
Saracco, P. and Ciliegi, P. 1995, A&A, 301, 348
Williams, B. A., McMahon, P. M., and van Gorkom, J. H. 1991, AJ, 101, 1957
Williams, B. A., and van Gorkom, J. H. 1995, In Groups of Galaxies, ASP Conf. Ser. 70, 77
Zepf, S. E., Whitmore, B. C., and Levison, H. F. 1991, ApJ, 383, 524


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第2章 観測および結果

第3章 データ分析

第4章 考察