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第 2 章 − 観 測 お よ び 結
果
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2−1 研究目的と手段
本観測研究の最終目的は、「コンパクト銀河群の物理的性質(集団中の銀河の形成進化、銀河集団としての形成進化)を明らかにすること」である。その実現のために次のようなステップを踏む必要がある。
●
ステップ1: メンバー銀河が重力的に結びついたリアルなコンパクト銀河群の抽出。
● ステップ2:
リアルなコンパクト銀河群に属する銀河の性質再調査。
● ステップ3: リアルなコンパクト銀河群の性質の再調査。
● ステップ4:
リアルなコンパクト銀河群の形成進化、およびその中での銀河の形成進化の解明。
まず最初のステップとして、銀河群が集団としての重力ポテンシャルを持つか否かによって、リアルなコンパクト銀河群の選出基準とする。このために最も適した観測方法はX線によるホットガス・エンベロープの検出
( Ponman and Bertram 1993; Pildis et al. 1995; Saracco and Ciliegi1995; Ponman
et al. 1996 ) であるが、実際の銀河群のX線光度、温度と現在のX線観測機器の感度から考えて、X線による多くの銀河群観測計画は極めて非現実的である、
HI ガスエンベロープに関しても国内には適した観測機器が無いことと、極めて進んだ観測研究が進行中であること ( Williams et al. 1991;
Williams and van Gorkom 1995 )
を考えると、これもやはり実際的では無い。実際にリアルなコンパクト銀河群では、頻繁な銀河衝突が実現しているはずであり、それによって銀河中に存在している恒星成分が銀河外に引き擦り出され、銀河集団の重力ポテンシャルにトラップされると考えられる。するとその恒星成分からの放射は非常に弱いが可視光から近赤外線の領域で観測可能である。可視光の撮像は国内の観測機器でも十分可能であるし、また観測時間も(多いとは言え)現実的な範囲に納まる。
従って、最初の目的はリアルなコンパクト銀河群サンプリングのための、オプティカル・ディープ撮像観測による、銀河群周縁のエンベロープ成分探索である。
2−2 サンプル
研究サンプルとしては第1章で紹介したヒクソン・コンパクト銀河群 (
Hickson Compact Group : HCG )の中から無作為に31銀河群を選出した。
2−3 観測機器
観測には東京大学天文学教育研究センター木曾観測所の105cmシュミット望遠鏡を使用し、RまたはIバンドによる30分から60分の長時間露光観測を行った。
2−4 観測結果
オプティカル・エンベロープの存在確認は難しいが、特に次の2つの点について検討した。
(その1) 「実際には PSF
の裾野である」可能性。
(その2) 「実際には楕円銀河の裾野である」可能性。
PSF の裾野については同じフレームに写った星像 ( PSF
) の裾野との比較によって、PSF の裾野よりも excess
があるかどうかを調べた。楕円銀河の裾野に関しては、楕円銀河のモデルをイメージから作成し、それを差し引くことで、楕円銀河の裾野からの excess
が有るか否かを調べた。その結果 PSF
や楕円銀河の裾野では説明できない成分が存在したとき、これを銀河群のオプティカル・エンベロープとした。次に観測結果を述べる。
●
31個中15の銀河群に図 2−1 のようなオプティカル・エンベロープを検出した。図 2−1
左図はオプティカル・エンベロープのイメージ、右図は楕円銀河のモデルを差し引いたイメージであり、この図から楕円銀河の裾野ではないことが明らかである。

( 図 2−1: HCG 40に検出されたオプティカル・エンベロープ )
●
我々が観測した31個の銀河群のうち、X線観測によってホットガス・エンベロープが見つかっているものは12個である。そしてその12個のうち8個にオプティカル・エンベロープが検出された。
●
図 2−2 のように検出されたオプティカル・エンベロープとX線観測によるホットガス・エンベロープの分布の概形は非常に酷似している。図 2−2 は HCG62 (
左 ) と HCG92 ( 右 ) のオプティカル・ディープイメージ ( カラーマップ ) とX線強度分布 ( コントアマップ: Pildis et al.
1995 ) である。
以上の観測結果から、銀河群周縁部のオプティカル・エンベロープを検出することによって、メンバー銀河が重力的に結びついたリアルなコンパクト銀河群をサンプリングすることが可能であると考えられる。
☆
参考文献
Pildis, R. A., Bregman, J. N., and Evrard, A. E. 1995, ApJ, 443,
514
Ponman, T. J., and Bertram, D. 1993, Nature 363, 51
Ponman, T. J.,
Bourner, P. D. J., Ebeling, H., and Bohringer, H. 1996, MNRAS, 283,
690
Saracco, P. and Ciliegi, P. 1995, A&A, 301, 348
Williams, B. A.,
McMahon, P. M., and van Gorkom, J. H. 1991, AJ, 101, 1957
Williams, B. A.,
and van Gorkom, J. H. 1995, In Groups of Galaxies, ASP Conf. Ser. 70,
77
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