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第 3 章 − デ ー タ 分 析

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3−1 データ分析の目的

我々は幾つかのヒクソン・コンパクト銀河群周縁部にオプティカル・エンベロープを検出した。オプティカル・エンベロープが形成されるためには、銀河群の中で頻繁なぎんが衝突が実現する必要がある。では頻繁な銀河衝突が起こっている銀河群とそうでない銀河群とでは、そのメンバー銀河や銀河群そのものの性質で何か違いがあるのだろうか?今回は次のような観点からオプティカル・エンベロープを持つ銀河群と持たない銀河群との比較を行った。

[ A ] 構成銀河に違いはあるか?
----->> 渦状銀河や特異銀河の存在率の差を調べる。

[ B ] 銀河群の力学状態に違いはあるか?
----->> 質量 ( メンバー銀河のBバンド光度から見積もる ) 、サイズ、速度分散という独立な観測から得られる三つの物理量間の関係を調べる。


3−2 メンバー銀河に関するデータ分析結果

3−1 節の [ A ] に関して、オプティカル・エンベロープを持つ銀河群と持たない銀河群で、構成銀河にどのような差があるかを調べた。具体的には「渦状銀河存在率」と「特異銀河存在率」の分布を比較した。ここでいう特異銀河とは tidal tails を持つ銀河や異常な回転曲線を持つ銀河 ( Rubin et al. 1991 ) 、異常なカラーを持つ銀河 ( Zepf et al. 1991 ) などのことである。その結果を図 3−1 に示す。図は横軸に渦状銀河存在率 f_s または特異銀河存在率 f_p を取り、縦軸に度数を取っている。尚、図中のOFEとは optical faint envelope の略でオプティカル・エンベロープのことである。

Fig31 = f_s and f_p
( 図 3−1: オプティカル・エンベロープの有無による、渦状銀河存在率 [ 左図 ] と特異銀河存在率 [ 右図 ] の度数分布比較。赤のヒストグラムはオプティカル・エンベロープがあるコンパクト銀河群、青は無いコンパクト銀河群を示す。 )


KSテストによる probbility は渦状銀河存在率で 20.5%、特異銀河存在率で 40.0% であり、どちらの分布に関しても、オプティカル・エンベロープの有無による統計的に有意な差は見られなかった。

3−3 銀河群に関するデータ分析結果

3−1 節 [ B ] に関して、コンパクト銀河群の3つの物理量、すなわち質量、サイズ、速度分散、の3つの物理量間の関係を調べ、オプティカル・エンベロープの有無で違いがあるか否かを調査した。なお、この3つの物理量はいずれも独立した観測から決定される。質量は Hickoson (1993) で示されたBバンド光度からハッブルタイプごとの質量光度比 ( Bacon et al. 1985; Rubin et al. 1985; Lo et al. 1993 ) を仮定して算出した。従ってここでいうコンパクト銀河群の質量とは各メンバー銀河に付随したダークマターは考慮されているが、メンバー銀河間に存在する(かもしれない)ダークマターは考慮されていない。またサイズは定義にもある、全てのメンバー銀河の中心を内包する最小円の半径を用いた。速度分散は Hickson (1993) に示された分光観測から決定された各メンバー銀河の後退速度の分散の値を用いた。結果を図 3−2 に示す。M, R, sigma はそれぞれ銀河群の質量、サイズ、速度分散である。赤丸はオプティカル・エンベロープを持つコンパクト銀河群、青丸は持たない銀河群である。

Fig32 = M-R-sigma
( 図 3−2: コンパクト銀河群の質量、サイズ、速度分散の関係。赤丸はオプティカル・エンベロープを有するコンパクト銀河群、青丸は持たない銀河群。直線は赤丸データに対するベスト・フィット・ラインである。)


オプティカル・エンベロープを持たない銀河群に対して、オプティカル・エンベロープを持つ銀河群は、質量−サイズ、速度分散−サイズ の関係がタイトである。これは銀河衝突を繰り返すことによって、コンパクト銀河群というシステムが特定の物理状態に落ち着くことを示唆している。

第4章ではこれら観測結果から考えられるコンパクト銀河群の力学的進化シナリオを考察する。


☆ 参考文献

Bacon, R., Monnet, G., and Simien, F. 1985, A&A, 152, 315
Hickson 1993, Ap. Lett. & Comm., 29, 1
Lo, K. Y., Sargent, W. L. W., and Young, K. 1993, AJ, 106, 507
Rubin, V. C., Burstein, D., Ford, W. K. Jr., and Thonnard, N. 1985, ApJ, 289, 81
Rubin, V. C., Hunter, D. A., and Ford, W. K. Jr. 1991, ApJS, 76, 153
Zepf, S. E., Whitmore, B. C., and Levison, H. F. 1991, ApJ, 383, 524


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第1章 はじめに

第2章 観測および結果

第4章 考察