暗黒星雲(dark cloud)

 銀河系内には数千億個の恒星が存在し,恒星と恒星の間にはガスとダスト(宇宙塵;固体微粒子)からなる希薄な星間物質が存在する.銀河系内の物質は,その大部分が恒星によって占められ,約10パーセントが星間物質として存在している(赤羽 他.,1988).銀河系内の星間物質の分布は一様ではなく,特に密度の高い領域が数多く存在する.このような星間物質の密度の高い領域が太陽系の近くにあると,背景の星や散光星雲の光を遮って暗く(シルエットとして)見える.これが暗黒星雲である.暗黒星雲は,ガスとダストからなる星間物質で構成され,ガスのほとんどが分子になっているため,(星間)分子雲と呼ばれることもある.


もっと詳しい説明

 暗黒星雲を観測する手段には主に,可視光を使う方法,赤外線を使う方法,電波を使う方法の3つがある.可視光は,古くからたくさんの観測が行われている.可視光では,星を数えること(星数計測)によって,暗黒星雲による背景の星の減光の度合いを調べる.これによって,暗黒星雲の大きさや距離,質量を知ることができる.
 赤外線は,暗黒星雲の中の低温のダストのスペクトル線を観測する.通常,赤外線は地球大気中の分子に吸収されるので,限られた波長域でしか観測できなかった.しかし1983年1月に打ち上げた赤外線天文衛星IRAS(Infrared Astronomy Satellite:アイラス)は暗黒星雲の中にたくさんの赤外線星を発見した.これらの赤外線星は,太陽程度の質量をもち,まだ主系列に達していない活動的な若い不規則変光星「おうし座T型星(T-Tauri 型星)」や,生まれたばかりの星で暗黒星雲の特に密度の高い領域に埋もれている「原始星候補天体」と考えられている.このように,赤外線の観測は暗黒星雲内部の星の形成過程の情報を知ることができる.
 電波は,暗黒星雲の中の分子が出す固有のスペクトル線を観測する.星間物質のうち,最も多い元素は水素である.しかし,水素分子H2は地上で容易に観測できる電波の波長域に放射がない.H2の次に多く,しかも容易に観測できる分子は1970年に発見された一酸化炭素(CO)である.電波による一酸化炭素などの星間分子のスペクトル線の解析から,暗黒星雲の温度と密度,雲の内部運動の大きさ,さらには原始星の降着ガス円盤の発見など,雲の内部の情報が得られる.
 以上のような研究の結果,暗黒星雲の特徴や様子が次第にわかってきた.
 暗黒星雲の温度は非常に低温(多くは10K程度)である.暗黒星雲が非常に低温なのは,分子ガスやダストの放射による冷却もさることながら,雲を暖める熱源が少ないためである.暗黒星雲内部には生まれつつある低温の星以外に熱源をもたず,外部からの紫外線やX線はダストによって遮られ雲の内部には入ってこれない.また,このように暗黒星雲の温度はは非常に低温であるため可視光域に電磁波を放出することができないのである
 暗黒星雲のサイズは様々で直径1光年以下の小型グロビュールから,数光年程度のボック・グロビュール,さらには数百光年に及ぶ暗黒星雲複合体がある.質量は太陽の数10倍のものから100万倍に達するものまで存在する.暗黒星雲は,全体として重力収縮過程にあり,恒星や惑星の形成するメカニズムを探る上で重要な研究対象になっている.


引用文献

・鈴木博子(1983):暗黒星雲.高倉達雄 監修(1983):現代天文学小事典,講談社

・佐藤文男(2000):基礎教養講座「教師のためのやさしい“電波天文学”」,理科の教育,576-581号