西浦クンの「エトセトラ」
フィルター・システムと恒星のスペクトル型を確認してみた(2017.10.10)



1. はじめに:研究で天体の撮像観測を行う際には、フィルターを用いて特定の波長帯の光(つまり、「特定の色」)のみを観測することが多い。しかし、観測者がそれぞれ異なるフィルターを使うと、お互いの結果を比較などする際に、非常に不便である。そこで、今までに多くの研究者が、観測に適切と思える複数のフィルター・システムを提唱してきている ( Bessell 2005 )。このようなフィルター・システムを測光標準システムと呼んでいるが、その中でも多くの観測所・観測者に使用されているものは、Johnson が提唱した Johnson システムであろう ( Johnson 1966 )。可視光を、若干その前後を含めて五つの波長帯に分け、波長の短い方から UBVRI バンドとした。このうち、RI バンドについては、後年 Cousins が提唱したものが各所で使用されるようになり、現在では、Johnson の UBV バンドと Cousins の RI を用いる Johnson-Cousisns システムが一般的な標準測光システムとなっている。論文の著者などにもよるが、下付き文字を用いて、Johnson システムの RI バンドを、RJIJ、Cousins システムの RI バンドを、RCIC と書き分けることも多いようである。なお、RJRCIJIC のフィルターとしての定量的・定性的な違いについては、Fukugita et al. ( 1995 ) などが詳しく議論している。
2. 目的:Johnson ( 1966 ) は、Johnson システムによる典型的な恒星のカラーを示しており、また、Bessell ( 1990 ) も、Johnson-Cousins システムを再検討し、UBVRCIC バンドのフィルター関数やこれらによる典型的な恒星のカラーなどを提示している。

ここで、本稿筆者は少し気になった。Johnson ( 1966 ) と Bessell ( 1990 ) は、どちらも同じ Johnson システムによる典型的な恒星のUBVカラーを示している。同じフィルター・システムで同じスペクトル型の恒星を観測するのだから、本来、両者の値は一致するはずである。しかし、本当にそうだろうか?また、おなじ「R」と「I」の文字を冠する「RJ」と「RC」、そして、「IJ」と「IC」は、どの程度、恒星のカラーを異なる値にしてしまうのだろうか?

3. データ:主系列星と巨星に対する、UBVRJIJのカラーの値を Johnson ( 1966 ) から、UBVRCICのカラーの値を Bessell ( 1990 ) から集めた。主系列星のO型星のカラーは、Johnson ( 1966 ) では「O5-7」「O8-9」「O9.5」と三つのカテゴリーに分けて示されていたが、Bessell (1990) では「O」として提示されていたので、Johnson ( 1966 ) の「O」のデータとしては、三つのカテゴリーの値を平均した値を採用した。また、Bessell ( 1990 ) では、「U-B」の値が示されていたが、Johnson ( 1966 ) では、「U-V」と「B-V」の値しか示されていなかったため、両者の差から「U-B」の値を計算した。
4. 結果と考察:
4.1 UBVカラー:図1に主系列星、図2に巨星に対する U-B vs. B-V を Johnsn ( 1966 ) と Bessell ( 1990 ) のデータを用いて描いたものを示す。主系列星については、同じスペクトル型に対して、ほぼ同じ U-BB-V が導かれており、ほぼ同じような2色図が描かれている。その一方で、巨星については、ほぼ同じような2色図が描かれているものの、同じスペクトル型に対して、B-V で最大 0.1 mag.、U-B で最大 0.4 ma. 程度のズレが認められる。このズレの原因は不明である(と言うか、西浦が知らないだけだろう。知っている人は多分知っている事だと思われる)。しかしながら、二つの2色図の経路がほとんど同じであることと、恒星のスペクトル型分類が眼視によって行われていることを考慮すれば、同じスペクトルに対して、異なるスペクトル型を与えているだけではないかと思われる。


図1:主系列星に対する U-B vs B-V

図2:巨星に対する U-B vs B-V

4.2 VRIカラー:図3には主系列星、図4には巨星に対して、V-R vs. V-I を Johnsn システムのみを用いた V-RJ vs. V-IJ と Johnson-Cousins システムを用いた V-RC vs. V-IC の両方を同時に示した。図3、図4を見ると、主系列星・巨星の両方で、K型あたりから両システムの経路が分かれており、UBV システムの時のような、単なるスペクトル分類の違いだけでは説明し難い状態になっている。これは、RJRC、そして、IJIC が大きく異なるフィルター関数を有している結果であると考えて間違いないだろう。カラーの差は晩期型になるほど大きくなり、最大で、V-R が 0.3 ~ 0.4 mag.、V-I が 0.6 ~ 1.5 mag.にもなる。R バンドとI バンドは、可視光の長波長側の波長帯であるため、晩期型になるほど違いが顕著になるのは、ある意味当然のことであろう。


図3:主系列星に対する V-R vs V-I

図4:巨星に対する V-R vs V-I

5. 結論:本稿ではまず、Johnson ( 1966 ) が当初提案した標準測光UBVシステムと、Bessell ( 1990 ) が再確認・提唱した Johnson UBV システムが定性的・定量的に同じか否かを、典型的な恒星の2色図を作成・比較することで確認した。その結果、定量的には、巨星に関してスペクトル分類の判断違いによると思われる違いが見受けられたが、定性的には両システムで同じ経路を描いており、事実上、同じものと理解して良いことが確認できた。

次に、Johnson ( 1966 ) が提唱した RJIJ システムと、Cousins が提唱した RCIC システムの違いを、典型定な恒星の2色図を作成・比較することで確認した。その結果、主系列星・巨星の両者に対して、K型星以降、最大で、V-R が 0.3 ~ 0.4 mag.、V-I が 0.6 ~ 1.5 mag. の違いを生じることが判明した。これは明らかに Johnson システムの RJIJ と Cousins システムの RCIC の性質が大きく異なることに起因するためと考えられる。


参考文献:


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Created: Mon Oct 16 17:20 JST 2017
Last modified: Fri Jan 15 11:40 JST 2021

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