西浦クンの「エトセトラ」
調子にのって恒星の色の定性調査をしてみた(2006.11.28)



1. はじめに:

前回頑張って恒星の画像を沢山撮影してみた。しかし露光オーバー(飽和:saturate)しないように撮影したのが仇となって、22個の恒星の画像は全て悲しいまでにショボイものだった。しかし、ここでこう考えてみた。画像で恒星の色が分かる、と言うことは恒星の大雑把なスペクトル情報が撮影できている、という訳ではないのか?勿論デジカメで天文学をやろうとはこれっぽっちも考えてはいない。しかし、もしもデジカメである程度再現性のある恒星のカラーデータが取得できるのであれば、ちょっとした体験学習などで使えるかも知れないではないか。こういったネタを模索することも、教育学部教員の使命に違いないのだ、多分、きっと。

2. 目的:

前回も述べたが使用したデジカメは、本学天文学研究室の備品、Canon製 EOS 20Da である。Canonが「天体写真用」と銘打って開発・発売したものである。2006年11月現在では既に製作発売は終了、後継機種に取って代わられている。そういう意味では、もともと天体撮影には向いているデジカメである。しかしこれで定量分析をするには、いろいろ問題がある。例えば、

などである。私は今回 EOS 20Da に対して、上記いずれの確認も行っていない。特に上記2番目が保証されないということは、観測天文学において最重要課題の「測光」が出来ないことを意味する。つまりデジカメ画像に写った恒星の光量を測定して、この恒星が何等星か?を知ることが出来ない、ということである。また上記3番目が未確認ということは、本当の飽和点が分からない、ということである。ここで私が言う「露光オーバー」とはあくまでデジタル表現上の露光オーバーであり、線形性の限界を超えた、という意味ではない。今回の目的は『普通の望遠鏡とデジカメを用いて普通に撮影した(露光オーバーでない)恒星画像』を用いて、恒星のスペクトルに関連した議論が「せめて」定性的に出来るか否か、を調査することである。

3. 測光:

前節で述べたように、正しい光量を測っている訳ではないので、以下の作業を「測光」と呼ぶのは学術的に誤りである。ただ作業方法は全く同じなので、便宜上「測光」と表現することにする。使用したソフトウェアは、

である。アマチュア用のデジタル画像分析ソフトなのだが、観測天文学者顔負けの機能がついていたりする。噂では、天文ファンの物理学者がソフト開発に協力したとか。それなら確かに頷ける。勿論、このステライメージ5も研究費で購入したものである。特にデジカメで撮影した画像は、下手に普段研究で使っているソフトで解析するより、ステライメージ5を使った方が相性が良い。

作業としては、恒星を撮影した画像をステライメージ5上で開き、カラー画像を「RGB分解」で各B・G・R画像に分解した。そして「測光ツール」で各画像の恒星の光量の強度測定を行った。使用した恒星画像は、まったく画像解析のプロセスを経ておらず、ダークノイズの除去すら行われていない。また、開口(aperture)サイズは適当に、

とした。測定した各B、G、RのカウントをI(B)、I(G)、I(R)と表わすことにする。さらにこれらを用いて、 を算出した。上式は天文学で言うところの「カラー(色)」である。なじみがない方は、B-GもG-Rも数字が小さくなると色は青く、大きくなると色が赤くなる、ということだけ知っておいて頂ければ十分である。またカラーの単位は「等級(magnitude)」となる。恒星の等級が決定できないにも拘わらず、カラーが等級を単位として求められることに違和感を感じる方がいるかも知れない。しかしカラーは単なる「異なる波長の光の強度比」であることに気付いて頂ければ、簡単に納得してもらえるだろう。

4. 結果および考察:

前回画像を掲げた22個の恒星全ての測光を行った。そして測定したI(B)、I(G)、I(R)からB-GとG-Rを算出した。特に今回は正確な等級を求めることができないため、天文学の研究でしばしば用いられるHR図を描くことは出来ない。しかし二つのカラーを使うことで「恒星の色が青っぽいのか赤っぽいのか」を議論することは出来る。このように3つの異なる波長帯(ここではB・G・R)で観測を行い、これらから2つのカラーを導出して作られる(B-G)vs(G-R)のような図を2色図(two color diagram)と呼ぶ。2色図の作成は、HR図と同様に天体スペクトルの大局を見る上で重要な方法である。図1に22個の恒星の2色図を掲げる。


(図1:恒星の「B-G vs G-R」の2色図)

図1の横軸はB(青)とG(緑)の強度比を示している。恒星のI(B)[青]が相対的にI(G)[緑]より強ければデータ点は左側にプロットされる。同様に縦軸はI(G)[緑]とI(R)[赤]の強度比を示している。I(G)[緑]が相対的にI(R)[赤]より強ければデータ点は下側にプロットされる。つまり図1上では、青い恒星ほど左下に、赤い恒星ほど右上にプロットされることになる。良く見るといろいろと気になる部分もあるが、図中では確かに恒星の表面温度が低くなるにつれて左下から右上に分布している。定性的には結構いい感じである。デジカメによる適当な恒星撮影でも、恒星の色をちょっと議論する程度のことはできそうだ。ただし左上に示した典型的な誤差棒をみて頂ければ、スペクトル型に深く突っ込んだ定量的な議論は難しいことが分かるだろう。

また今回のデータを調べたところ、同じ恒星であっても、シャッター速度が短い場合(1/10sec以下くらい?)では、G-Rのカラーがゼロに近づく傾向があるように思える。データが少ないので詳細な議論は出来ないが、シャッター速度がカラーに影響するのは嬉しいことでは無い。そのうち機会を見て詳細を確認したい。何にせよ、ちょっとした体験学習には使えるかも知れない。


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Created: Tue Nov 28 22:06 JST 2006
Last modified: Fri Jan 15 11:35 JST 2021

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