前回頑張って恒星の画像を沢山撮影してみた。しかし露光オーバー(飽和:saturate)しないように撮影したのが仇となって、22個の恒星の画像は全て悲しいまでにショボイものだった。しかし、ここでこう考えてみた。画像で恒星の色が分かる、と言うことは恒星の大雑把なスペクトル情報が撮影できている、という訳ではないのか?勿論デジカメで天文学をやろうとはこれっぽっちも考えてはいない。しかし、もしもデジカメである程度再現性のある恒星のカラーデータが取得できるのであれば、ちょっとした体験学習などで使えるかも知れないではないか。こういったネタを模索することも、教育学部教員の使命に違いないのだ、多分、きっと。
2. 目的:
前回も述べたが使用したデジカメは、本学天文学研究室の備品、Canon製 EOS 20Da である。Canonが「天体写真用」と銘打って開発・発売したものである。2006年11月現在では既に製作発売は終了、後継機種に取って代わられている。そういう意味では、もともと天体撮影には向いているデジカメである。しかしこれで定量分析をするには、いろいろ問題がある。例えば、
前節で述べたように、正しい光量を測っている訳ではないので、以下の作業を「測光」と呼ぶのは学術的に誤りである。ただ作業方法は全く同じなので、便宜上「測光」と表現することにする。使用したソフトウェアは、
作業としては、恒星を撮影した画像をステライメージ5上で開き、カラー画像を「RGB分解」で各B・G・R画像に分解した。そして「測光ツール」で各画像の恒星の光量の強度測定を行った。使用した恒星画像は、まったく画像解析のプロセスを経ておらず、ダークノイズの除去すら行われていない。また、開口(aperture)サイズは適当に、
前回画像を掲げた22個の恒星全ての測光を行った。そして測定したI(B)、I(G)、I(R)からB-GとG-Rを算出した。特に今回は正確な等級を求めることができないため、天文学の研究でしばしば用いられるHR図を描くことは出来ない。しかし二つのカラーを使うことで「恒星の色が青っぽいのか赤っぽいのか」を議論することは出来る。このように3つの異なる波長帯(ここではB・G・R)で観測を行い、これらから2つのカラーを導出して作られる(B-G)vs(G-R)のような図を2色図(two color diagram)と呼ぶ。2色図の作成は、HR図と同様に天体スペクトルの大局を見る上で重要な方法である。図1に22個の恒星の2色図を掲げる。
図1の横軸はB(青)とG(緑)の強度比を示している。恒星のI(B)[青]が相対的にI(G)[緑]より強ければデータ点は左側にプロットされる。同様に縦軸はI(G)[緑]とI(R)[赤]の強度比を示している。I(G)[緑]が相対的にI(R)[赤]より強ければデータ点は下側にプロットされる。つまり図1上では、青い恒星ほど左下に、赤い恒星ほど右上にプロットされることになる。良く見るといろいろと気になる部分もあるが、図中では確かに恒星の表面温度が低くなるにつれて左下から右上に分布している。定性的には結構いい感じである。デジカメによる適当な恒星撮影でも、恒星の色をちょっと議論する程度のことはできそうだ。ただし左上に示した典型的な誤差棒をみて頂ければ、スペクトル型に深く突っ込んだ定量的な議論は難しいことが分かるだろう。
また今回のデータを調べたところ、同じ恒星であっても、シャッター速度が短い場合(1/10sec以下くらい?)では、G-Rのカラーがゼロに近づく傾向があるように思える。データが少ないので詳細な議論は出来ないが、シャッター速度がカラーに影響するのは嬉しいことでは無い。そのうち機会を見て詳細を確認したい。何にせよ、ちょっとした体験学習には使えるかも知れない。