西浦クンの「エトセトラ」
ただの星を撮影してみた(2006.11.28)



1. はじめに:

ある日、飲みに誘われた。体調が思わしくなく、また仕事も山積みだったので断るつもりだったが、結局行ってしまった。ただし私はアルコールを控えて夕食のみ摂ることにした。そして研究室へ戻ってきたある晩のこと。本学の正門は真夜中に施錠される。自家用車で通勤している私は、施錠されると車が出せなくなり、家に帰れなくなってしまう(勿論帰る手段が全く無い訳ではないが...タクシーとか徒歩とか)。しかしその時は施錠までまだ1時間半ほど余裕があった。しかもさっきまで雨がぱらついていたのに、今は見事に晴れている。東の空にはオリオン座が上って来ているではないか。今から論文を執筆するのも、観測データを解析するのも何となく中途半端だ。そこで思い切って以前から考えていた事を実行に移すことにした。題して「ただの恒星をデジカメで撮影しようプロジェクト」である。見栄えのある星雲・星団や銀河は確かに受ける、しかし研究のためでも無いただの綺麗な天体写真のために、市販品望遠鏡の極軸を毎回きちんと合せて、長時間露光を複数行って、それをPC上で画像処理するなんてことは私には絶対出来ない。でもそのような手間をかけなくても、簡単に撮影できる天体がある。そうただの恒星である。特に名前が付いた明るい恒星ならば、長時間露光の必要がないため、正確に望遠鏡の極軸を合せる必要も無い。しかもただの恒星を、その色が分かる程度に撮影した資料というのは意外と少ない。そこで研究室の器材を使用して、ただの恒星の撮像観測を行ってみることにした。

2. 望遠鏡およびデジタルカメラの設置:

使用した器材は以下の通り。いずれも本学天文学研究室の備品である。

デジカメはフリップミラーを通して望遠鏡の直焦点に接続し、リモートコントローラーを取り付けた(デジタル製レリーズみたいなもの)。望遠鏡には極軸望遠鏡はついていないので、付属の水準器を頼りに三脚を水平にセットし、さらにコンパスを用いて望遠鏡を磁北に向けた。また本学の北緯は35d42mと既知であるので、赤道儀をこの値にセットした。以上の作業で極軸が合ったことにした。

3. ターゲットおよび撮影:

11月中旬~下旬にかけて、日没後から真夜中の間に眼視で導入できる恒星。またスペクトル型がまんべんなく揃うように理科年表を参考にした。撮影日および気象条件は、

である。

撮影はターゲットの恒星をカメラ・ファインダー内に導入し、フォーカスを合わせた上で、シャッター速度を1/50sec, 1/20sec, 1/10sec, 1/5sec, 1/2sec, ~1.0secと少しずつ変えて2枚ずつ撮影した。これは恒星像を飽和(露光オーバー)させないためと、大気揺らぎによる星像の歪みが出ないようにするためである。

実際のところ、15日の観測はテスト撮影として、シャッター速度を1~5secで1-2等星(北極星、ベテルギウス、リゲル、)を撮影した。しかし撮影後、画像を調べたところ、撮影した恒星全てがsaturateしていることが分かった。そこでこれを元に、24、25日の観測ではシャッター速度を前述したスピードに設定し、状況に応じて、望遠鏡の筒先にフードを取り付けることで有効口径の減少を図った。実質11月24日と25日の二晩で(真夜中を過ぎると自家用車を大学から出せなくなるので、実際には二日とも真夜中前に観測を終えている)、22個の恒星を撮影した。

4. 結果:

表1に恒星の基本的な情報(名称、星座、赤経、赤緯、スペクトル型)と、撮影した画像を掲げる。なお赤経・赤緯は2000年分点である。表の空欄には恒星のスペクトル型をダミーで入れてあり、非常にお見苦しいが勘弁して頂きたい。

恒星タイプO型B型A型F型G型K型M型
超巨星
( I )
アルニタク
(Alnitak)
zeta-Ori
オリオン(Ori)

05h40m48s
-01d57m
O9.7Ib
アルニラム
(Alnilam)
e-Ori
オリオン(Ori)

05h36m12s
-01d12m
B0I
デネブ
(Deneb)
alpha-Cyg
はくちょう(Cyg)

20h41m24s
+45d17m
A2I
fgkベテルギウス
(Betelgeuse)
alpha-Ori
オリオン(Ori)

05h55m12s
+07d24m
M1-2I
oリゲル
(Rigel)
beta-Ori
オリオン(Ori)

05h14m30s
-08d12m
B8I
agkm
(I-II)obaポラリス
(Polaris)
alpha-UMi
こぐま(UMi)

02h31m48s
+89d16m
F7I-II
gkm
輝巨星
(II)
obagアルビレオa
(Albireo-a)
beta-Cyg
はくちょう(Cyg)

19h30m42s
+27d58m
K3II+B0.5V
m
(II-III)obafgkシェアト
(Scheat)
beta-Peg
ペガスス(Peg)

23h03m48s
+28d05m
M2.5II-III
巨星
( III )
obafカペラ
(Capella)
alpha-Aur
ぎょしゃ(Aur)

05h16m42s
+46d00m
G5III
シェダル
(Schedar)
alpha-Cas
カシオペア(Cas)

00h40m30s
+56d32m
K0III
m
obafディフダ
(Diphda)
beta-Cet
くじら(Cet)

00h43m36s
-17d59m
K0III
m
obafアルデバラン
(Aldebaran)
alpha-Tau
おうし(Tau)

04h35m54s
+16d31m
K5III
m
(III-IV)obaカフ
(Caph)
beta-Cas
カシオペア(Cas)

00h09m12s
+59d09m
F2III-IV
gkm
準巨星
( IV )
oツィー
(Tsih)
gamma-Cas
カシオペア(Cas)

00h56m42s
+60d43m
B0IV
afgkm
oアルゲニブ
(Algenib)
gamma-Peg
ペガスス(Peg)

00h13m14s
+15d11m01s
B2IV
afgkm
( IV-V )obaプロキオン
(Procyon)
こいぬ(CMi)

07h39m18s
+05d14m
F5IV-V
gkm
主系列星
( V )
oアルビレオb
(Albireo-b)
はくちょう(Cyg)

19h30m42s
+27d58m
B8V
ベガ
(Vega)
こと(Lyr)

18h36m54s
+38d47m
A0V
fgkm
obシリウス
(Sirius)
おおいぬ(CMa)

06h45m06s
-16d43m
A1V
fgkm
obカストル
(Castor)
ふたご(Gem)

07h34m36s
+31d53m
A1V+A2V
fgkm
obフォーマルハウト
(Fomalhaut)
南のうお(PsA)

22h57m36s
-29d37m
A3V
fgkm
obアルタイル
(Altair)
わし(Aql)

19h50m48s
+08d52m
A7V
fgkm

5. 考察?:

数を並べるとそれなりに見応えがあるが、恒星写真のそれぞれは、それほど見栄えしない。以前恒星写真を沢山掲げたページがあったのだが、今回改めて見直して見応えの無さの原因が分かった。今回は恒星像をsaturateさせないように、非常に短いシャッター速度で撮影を行っている。しかし実際にはsaturateさせないように撮影した恒星画像は、本当に少し色付いた「丸」にしかならないのだ。表1に貼った画像はそれでもsaturateしたものを選んであるのだが、恒星では寧ろ露光「超」オーバー気味の方が恒星本来の色が出やすいようだ。しかも今回はデジカメを屈折望遠鏡の直焦点に取り付けただけなので、露光オーバーした時でも十字線は入らない。

ちなみに露光オーバーの恒星像に十字線が入っている(上記HPでもそうなっている)のをよく見かけるが、これは光路上にカメラや副鏡を取り付けるための支えがある場合に生じるものである。強い光が望遠鏡に入射した時、この支えで光の散乱が生じ、それが像に写ってしまう訳だ。つまり恒星像に十字線が入っている場合は、カメラや副鏡が十字型の支えに取り付けられていることを示している。もしも支えが3本や5本であれば、恒星像には3本や5本の線が入る。

観測天文学者の私としては、観測対象を露光オーバーさせることに非常に抵抗があったのだが、見応えのある恒星画像を撮影したい場合は、寧ろそれなりに露光オーバーさせるべきだったのだ。うーむ、やはり研究と天体撮影は違うなぁ。次回は敢えて露光「超」オーバーとなるような設定で、恒星を撮影した。

折角なので表1について少しコメントしておくと、表1の左から右に向かって、恒星の表面温度は低くなる。この場合、人の目には左から右に向かって、青・白色から黄色、赤色と写るはずである。同じスペクトル型でありながら、今回の撮影画像には多少色のばらつきがある。しかしながら大局的には表左側の恒星は青・白色、表右側の恒星は黄・赤色に見えている。これら画像は事実上画像解析をしていない。撮影したままの画像である。従って口径8cmの屈折望遠鏡と適当なデジカメがあれば、恒星の色が青(白)か赤(黄)か程度は簡単に撮影して調べることが出来ると言う訳だ。今回使用したデジカメは非常に高価かつ天体撮影用のものではあるが、この程度の撮影であれば、普通のデジカメでも十分に可能だろう。また幾つか緑がかった恒星(デネブ、シリウス、フォーマルハウト)もあるが、これらは本来、青白色の恒星である。実はこれらは何れも薄曇時に低高度で撮影したものである。きっと大気によって短波長側(つまり青色のスペクトル)が散乱されてしまったのだろう。そのうち晴れた高い位置で撮影し直したいものだ。


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Created: Tue Nov 14 18:29 JST 2006
Last modified: Fri Jan 15 11:35 JST 2021

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