西浦クンの「エトセトラ」
CD分光器で遊んでみた(2006.11.14)



はじめに:仕事柄、天文教育というものを考えねばならないこともある。しかもやはり仕事柄、考えたらそれを何らかの形で発表して、論文化するしなければならない。ところが!真面目に考えると、天文教育はその性格上、結構難しいのである。しかも教材や方法論として論文化に耐えられるものとなるとなおのことである。しばしば用いられるネタの一つに、分光器を作っていろいろな光源を観察する、というものがある。簡単な分光器を作るとなると、さらに方法は決まってくる、CDかレプリカグレーティングを使用するのである。ちょうど私の手元には、前任地で開発されたCD分光器の型紙がある。折角なので、今回はこれを作成して使ってみよう。

『伊藤・峰崎』型CD分光器:図1に型紙を掲げる。A3の工作用紙から2台作成できるサイズだ。ちなみに型紙中央左にあるのはCD-R片である。市販のCD-Rをニッパーとラジオペンチで8分の1にしたものである。このCD分光器にCD-R片を取り付ける際には、ここからさらに小さく切り出す必要がある。ちなみにこのCD分光器は、伊藤信成氏(2010年03月現在、三重大学教育学部)と峰崎岳夫氏(2010年03月現在、東京大学天文学教育研究センター)が中心となって、東京大学天文学教育研究センター木曽観測所の特別公開日用に設計開発したオリジナル品である。私は心の中で御二人に敬意を表して『伊藤・峰崎型CD分光器』注1)と呼ばせてもらっている。

(図1:『伊藤・峰崎型』CD分光器の設計図)

上記設計図に従ってA3工作用紙の半分を使用して、CD分光器を製作した。裏面は迷光を封じるために油性の黒マジックで真っ黒に塗ってある。また組み立てには「工作あつがみ用」(コニシ製)接着剤を使用した。分光器へのCD-R片の貼り付けにも、同じ接着剤を用いた。CD分光器の完成図を図2、3、4に掲げる。


(図2:『伊藤・峰崎型』CD分光器側面。底が斜めになっている場所にCD-R片が貼り付けられている。)


(図3:『伊藤・峰崎型』CD分光器上面。覗き口からスペクトルを観察する。)


(図4:『伊藤・峰崎型』CD分光器前面。スリットへ光を導入する。)

スペクトルの観察および撮影:分光器が出来たら、後はいろいろとスペクトルを観察するだけだ。折角なので今回は自分のデジカメでもスペクトルを撮影してみた。ちなみに私のデジカメはPENTAX製のOptio-S60である。スペクトルの撮影は、何も特別なことをした訳ではなく、覗き口のところにデジカメのレンズを押し付けて、単純に接写しただけである。取り合えず身の回りの光源ということで、1)太陽[晴れた空]、2)研究室の蛍光灯[日立製サンライン40型38W]、3)液晶ディスプレイ[三菱製RDT176M]の白色表示部、のスペクトルを撮影してみた。図5、6、7がそれぞれの実物とスペクトルである。なおOptio-S60は光学ズームが可能な機種であり、スペクトル撮影時にはズームによる拡大撮影を行っている。また画像データはデジカメの性質上JPEG形式で保存される。


(図5:太陽[晴天]のスペクトル)


(図6:蛍光灯とそのスペクトル)


(図7:ディスプレイとその白色表示部のスペクトル)
考察:簡単な考察を行っておこう。三つのスペクトルを比べてみると、改めてそれぞれに特徴があることが分かる。まず太陽光ではスペクトルが連続的である。青部・緑部・赤部にそれぞれ一つずつ暗線が見えるような気がするが、これはフラウンホーファー線だろうか?それともデジカメの低感度部か?JPEG圧縮時のノイズの可能性もある。蛍光灯では連続的なスペクトルに加えて、青色部と緑色部に特徴的な輝線スペクトルが見られる。また連続光スペクトルでも最短波長部は太陽光より長波長側、最長波長部は太陽光よりも短波長側にあり、蛍光灯の波長範囲は太陽光ほど広くないことが分かる。液晶ディスプレイに到っては見事なまでに輝線成分が顕著なスペクトルになっている。しかし青色部では紫外部にむかって弱い連続光スペクトルが見える。はてこれは何だろうか?

毒食らわば何とやらで、波長に対するスペクトル強度を図にしてみた。アストロ・アーツ社のステライメージ5を用いて、スペクトルの波長方向の中心線に沿った強度を表示させた。図8、9、10に光源ごとに撮影したスペクトルとその強度分布図を併せて掲げる。スペクトルの強度図は左が短波長側、右が長波長側であり、波長較正はしていない。青・緑・赤はBGRの画素に対する光の強度を示している。これらデジカメの画素には波長感度特性があるため、この強度図がそのまま実際の光の強度分布を示している訳では無い。それでも相対的な強度差や連続/輝線スペクトルの定性的な性質を調べる分には十分だろう。


(図8:太陽光のスペクトルとその強度分布図。)


(図9:蛍光灯のスペクトルとその強度分布図。)


(図10:液晶ディスプレイのスペクトルとその強度分布図。)

さすがにスペクトル強度分布図にすると、太陽光(連続光)、蛍光灯(連続光+輝線)、液晶ディスプレイ(輝線)のそれぞれの特徴がよく分かる。

今後の展開:別に展開させなくてもいいのだが、前任地(東大木曽観測所)では、この分光器を用いて、様々なスペクトルを観測するという実習を中学生と一般向けに行ったことがある。その時には太陽光、白熱灯、蛍光灯に加えて、塩化ナトリウム水溶液(塩水!)に浸したニクロム線をバーナーで加熱することでナトリウムの炎色反応のスペクトル(輝線)を観察したり、赤青黄のセロハンを通した太陽光のスペクトルを見ることで吸収線スペクトルの観察を行ったりした。また幾つかのHPで「植物からクロロフィルを抽出して、それによる太陽光の吸収スペクトルを観察する」というテーマが紹介されていた。これは面白いかも知れない。ちなみに最近は気温も下がり、研究室でもガスストーブを点けることが普通になってきたが、ガスストーブの赤熱部のスペクトルは連続スペクトルであった。当たり前だが...ただし暗くてデジカメでは上手く撮影できなかった。残念である、いずれまた挑戦したいものだ。注2)



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Created: Tue Nov 14 18:29 JST 2006
Last modified: Fri Jan 15 11:35 JST 2021

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