0. Wikipedia によれば、Cygwin は MS-Windows の下で動作し、Unix-like な作業環境を提供してくれるフリーウェアの一つである。Cygwin1.dll と いうダイナミック・リンク・ライブラリがシステムの中心であり、これに よって Unix 上のシェルやコマンドなどを、MS-Windows上で、ソースから コンパイルできるようにしたものである。従って、システム構造上、エミュ レーターとは異なるものである。シグナスソリューソンズが主に開発しており、 公式サイトはこちらである。 Cygwin 本体は、公式サイトなどからのダウンロードで簡単に入手・イン ストールが可能である。また、最近のバージョンでは X-Window も容易に 動作するようになったため、初学者向きの Unix 系 OS 学習などでも重宝 されることがあるようだ。 天文学関連では、PC-IRAF の MS-Windows 版というのが、Cygwin 環境下で 用意されている。すると、わざわざ Unix や Linux をインストールした PC を用意しなくても、MS-Windows が動く PC さえあれば、Cygwin をインス トールすることで、Unix や Linux 、そして PC-IRAF を用いた画像解析実習 などを容易に行えることになる。これは大変嬉しいことだ。 さらに、これが USB メモリから Cygwin を立ち上げる形に出来れば、解析 ツールのシステムと、解析データそのものを、一つの USB メモリに用意する ことが出来て、さらに便利である。 と、思っていたら、日本女子大の濱部氏が、これを見事に実現されていた。 FAT32 でフォーマットした USB メモリ内から Cygwin を起動し、さらに X-Window、xgterm を動かして、最終的にはこれから PC-IRAF を立ち上げる ことができる。さらにこの PC-IRAF の中には、濱部氏自らが開発メンバーでも ある銀河の表面測光用ライブラリである SPIRAL もインストールされている ため、銀河の基本的な画像解析と分析が、これだけで結構行えてしまうので ある。なお、このシステムは(おそらく)非公開ではあるが、現在、関係者の 間でのみ、密かに流通している(笑)。 本稿は、このシステムを使用する際に必要な設定の備忘録である。このシス テムを動作させたPC環境は以下の通りである。 PC : レノボ製 ノートPC, Lenovo 3000 V100 Notebook 0763-64J CPU : Core Duo T2300E 1.66GHz(2MB) Memory : 1.0GB HDD : 100GB ----- I. Cygwin 起動前の設定 ----- 1.1 profile の変更 USB メモリ中の /cygwin/etc/profile を秀丸エディタなどで、書き込み可能 な状況で開く。なお、この作業は MS-Windows のワードパッドなどでは上手く 行かないことが確認されている。 追記・変更する箇所は以下の通り。 # Set the user id のセクションに対して、ユーザー visitor 用に、 export USER="visitor" export HOME=/home/visitor を追記。他の ID については「#」でコメントアウトする。 1.2 .bashrc の変更 USB メモリ中の /cygwin/home/*/.bashrc を秀丸エディタなどで、書き込み可 能状態で開く。 追記・変更する箇所は以下の通り。 ユーザー visitor に対して、/cygwin/home/visitor/.bashrc に、 export IMTDEV="inet:5137:127.0.0.1" export PGPLOT_DEV="/xwindow" を追記。 ----- II. Cygwin, X-Window, PC-IRAF の起動 ----- 2.1 Cygwin の起動 MS-Windows のコマンドプロンプトを開き、カレントドライブを USB メモリ にする。そして、 cygwin[RET] でメッセージがコマンドプロンプトの画面の中を、次々と流れて、しばらく すると cygwin が起動する。 2.2 X-Window の起動 cygwin の適当なウィンドウから、 startx[RET] と入力すると、ウインドウの中を様々なメッセージが次々と流れて、しばらく すると、X-Window が立ち上がる。 Cygwin 上での X-Window の起動については、こちらの追記事項も参照のこと。 2.3 PC-IRAF の起動 --- 初めての起動の場合 IRAF を使用するにおいて一般的なことではあるが、本システムで初めて PC -IRAF を起動する場合は、以下の作業を行う。 X-Windows で立ち上がったウインドウから、 mkiraf[RET] と入力して、IRAF を初期化する。ターミナルには、 xgterm を指定する。 この作業によって、mkiraf を実行したディレクトリに、login.cl という ファイルが出力される。これが IRAF の設定ファイルで、今後、IRAF を起動 する度に、このファイルを読み込んで、その設定を反映させる。 一旦この作業を行えば、今後は IRAF を初期化しない限り不要である。 さらに、login.cl は以下のように書き換えると、IRAF が使いやすくなる( と思われる)。 set home = "/home/visitor/" set imdir = "." set stdimage = imt4096 set imtype = "fits" set imextn = "oif:imh fxf:fits,fit,FIT,fts plf:pl qpf:qp stf:hhh,??h" 2.4 PC-IRAFの起動 --- 通常の起動の場合 X-Windows で立ち上がったウインドウから、 xgterm[RET] と入力して、ターミナル xgterm を起動し、この xgterm から、 cl[RET] で IRAF が起動する。 ----- III. PC-IRAF, X-Window, Cygwin の終了 ----- 終了する時には、起動した時の反対でOK。 DS9 は上部メニューの「ファイル」から「終了」を選択して終了。 PC-IRAF は xgterm から logout[RET] で終了。さらに xgterm はプロン プトから exit で終了する。 X-Window も exit[RET] で終了。ウィンドウも閉じられる。 そして、cygwin のウィンドウから exit[RET] で Cygwin も終了し、コマンド プロンプトに戻る。そして、Cygwin の各種設定の保存のために、コマンドプロ ンプトから cygend[RET] と入力してバッチファイルを起動。メッセージがたくさん流れて、再び普通のコマ ンドプロンプトが帰ってくる。 最後に exit[RET] でコマンドプロンプトを閉じて完全に終了。 さぁ、では FITS 画像を解析しましょう! (2012年08月30日追記) Cygwin 上で X-Window が立ち上がらないということが時々ある。原因はケース・ バイ・ケースなのだが、ここでは、筆者が遭遇した対処法を幾つか記しておく。 なお、予めお断りしておくが、これらは必ずしもベストの解決方法ではない。これら の方法を試すことで何らかの問題が生じても、筆者は責任を負いかねるので、くれぐれ も注意して欲しい。 ・ startx や startxwin.sh では無く、startxwin.exe で X-Window を起動する。 ただし、バージョンによっては startxwin そのものが無いこともある。 ・ (不覚にも正しいメッセージを憶えていないのだが) MS-Windows XP の一般 ユーザー権限で、 Cygwin から startx や startxwin で X-Window を立ち上げ ようとした場合、 startx A fatal error has occurred and Cygwin/X will now exit. などのメッセージが出て、レスポンスが悪くなり、挙句の果てに fatal error と 言われて、X-Window が立ち上がらないことがある。これは、ユーザー権限の問題 で、先に起動した X-Window に関する一時ファイルが消去もしくは上書きできない ことに起因するようだ。 対処方法としては、administrator でログインし、 /cygwin/tmp/.X11-unix/ にある「X0」というファイルを消去すれば良い。この X0 というファイルは、普通、 X-Window の起動とともに作成され、X-Window のシャットダウントとともに消去さ れる。しかし、時々、何らかの要因によって、これが実行されないことがあるようだ。 バージョンによっては、別の場所に作成されているかも知れないので、注意して欲しい。
Last modified: Thr Aug 30 14:35 JST 2012